駄々

http://t-walker.jp/sr/bbs/bbs.cgi?bbsid=3255#116

ばーっと書いただけなので直ぐお蔵入りにするかもナ。
上のＵＲＬは元にしたスレッド。読まないと分かり難い。

「…フラれた、ナ」

からかい半分で言った心算だった筈のその声が、実際には酷くしんみりと響いた事に気付き、我が事ながら少し驚く。
呼音子は思わず、声に出さず苦笑した。

「……」

アキラは答えず、少し気まずげに身動ぎするだけ。
或いは未だ響いている幼い泣き声に隠れて聞こえなかったのかも知れないが。

その視線は先ほどから一点に向いている。
廃屋から“出掛け”ようと歩み行く首魁の背。

アキラに習い、眇める様にして見つめる。

…広くは見えない。だが濃い肌の色に象徴するように、凝縮した感想を受けるその背中。事実、今その背には凝縮されているのだろう。強敵への友情と、闘いへの情動が。
彼女が之より何処に、何を為しに向かわんとしているか、それが分からぬほど鈍いつもりは無い。

『…果し合いと言う名の“おデート”と言う訳だ』

まあ、実際には先ず約束を取り付けに行くのだろうが。兎も角もその“目的”だけは、間違えようも無く明確に分かる。

…そしてそれは、隣で見送るアキラとて同じだろう。

「……」

先ほどまでアキラが闘っていた相手…龍臥崎まきなを想う。
衣装こそ子供と一部の大人を同時に引き込まんとする類のＴＶ番組で見るような魔法少女姿ではあったものの、龍臥崎の振るった技は忍体術部部長の銘に恥じぬ、武の御業。
不断の鍛錬、長き歴史が培った理合。それらに裏打ちされた戦闘技術。

……ピジョン・ブラッドの振るうソレと、同種の技術。

小さくなり行く首魁の背。
…止めようも無いほどの覇気が漏れ出ている。気がする。
アキラと龍臥崎の一騎打ち、盟友である龍臥崎の闘いを目前で見たのだ。武術家としての魂が今如何に燃え盛っているのか、想像に難くない。ハートに火をつけられた今の彼女は、愛しき盟友とのめくるめく打ち果たし合いの事で頭が一杯なのだろう。何時もより少し…歩む脚が早く、力が篭っている様にも見えた。


視線を外しアキラの方を……正確には、アキラを通して“己が初めて廃屋に訪れた頃のアキラの姿”を幻視する。

半年以上前のあの頃。アキラは今以上に頑なだった。今だって人懐っこさとは対極に居る彼女だが、それでも当時に比べれば格段に丸くなっている。年下の同性である筈の自分に対してすら、最初には薄い敵意と深い警戒を見せた当時に比べれば…

そんな彼女が、唯一、心を許していた様に見えたのが、ピジョンだ。

自分と会う更に前、入団直後は更に荒れていたと聞く。
詳しい情報を揃えている訳ではない。だが、故郷に居た頃の彼女に、家族と呼べる存在は無かった事は間違いないらしい。信頼に足る身近な存在も、居なかった…と。

そんな彼女が学園に来てから得た最初の“長”、初めて入団した結社の結社長が、ピジョン。
初めての。頼る事の出来る、自分の遥か上を行く同性の長。

アキラの内心はアキラにしか分かるまい。

だが、その上で敢えて根拠の無い想像を口にするならば…




幻視を未来へと加速させ、先程の決闘の風景まで進める。

肉を切らせて骨を断つ。
その理論とも言えぬ大振りな作戦を地で行く戦い方。術理とは遠い。場数と本能に拠って組み上げられた、獣の戦舞。
能力者の超常の力があればこそ勝負になる。無ければ武道の前には塵芥に等しく蹴散らされるだけであろう喧嘩殺法。薄く、浅い、戦いの技術。

武道とは、ピジョンの振るうソレとは、対極の暴力。


一度アキラに聞いた事がある。
「何ならピジョンに武道を習って見てはどうか」と。
返って来たのは「自分には徹底的に向かない」と言う素っ気無い言葉。そして一抹の寂しさの滲む顔。
確かに、学園の分類する所の神秘に長け、術式に劣るアキラがピジョンの振るう武道の術理に向かないのは事実ではある。だがそれでも、手慰みに習う事すら拒否すると言うのは…

アキラの内心はアキラにしか分かるまい。

だが、その上で敢えて確証の無い夢想を口にするならば…




「…体育会系メ」

豆粒ほどとなった首魁の背に、思わずそう呟く。

ピジョンのあの様子が、アキラの気持ちを何処まで理解した上でものなのかは分からない。
或い 全て承知の上かもしれない。納得は行く。
或いは何一つ気付いても居ないのかも知れない。
案外自分へ向けての好意には鈍いと言うのも、それはそれでありそうだ。

何れにせよ、一つ確実なのは…


ついに見えなくなった背を追う事を諦め、深く溜息を吐く。



『アキラーのヤツが思い切ってブチマケタ“駄々”は結局、力一杯全力で逆効果にナッタ訳だ……』



アキラの内心はアキラにしか分かるまい。

だが、その上で敢えて好き勝手言わせて貰うならば……
傍目にどー見たってアレは“懐いてたお姉ちゃんを取ってっちゃった友達に喰って掛かる妹”な訳で。“自分ではどうしても着いていけないジャンルで繋がっている二人への疎外感と嫉妬”がボッロボロ零れている様にしか見えない訳で。

白状すれば呼音子ですら、ピジョンを長と見上げる廃屋の結社員として一抹の寂しさを覚える時がある。

明らかにあからさまにピジョンに懐いて居たアキラにして見ればそりゃあ尚の事……


『ソリャーなあ、シヅキーと違ってパッと見分かり易いカタチで出しはしナイけどな。でもナ。だから、本当、だからダナ……』




アキラは未だ小学生の子供なんだってば。

つづく？